今回は自分で書いた小説『高級車とミニチュア』を載せます。あ、大丈夫です。みなさんは小説と聞いたら単行本一冊の文字数をイメージされるかと思いますが、掌編小説なのでサクッと読めます。その解説が下に続きます。皆さんご自身の自分の解釈と照らし合わせば、新しい発見があるかもしれません。
『高級車とミニチュア』
男は或る高級車に憧れていた。しかし平凡なサラリーマンである男には金が無く、それを買えずにいた。
男は、寝ても覚めてもその車のことばかり考えていた。男は一人暮らしだった。だから誰にも咎められずに、存分にその車のことを考えた。あの車が欲しいけど買えない。男はそのジレンマを何とか解消しようとあれこれ試した。男はその車を置いてある販売店に通い、その車をジロジロ眺めた。しかし恥ずかしくて、通う頻度は少なかった。一方で、いくらでも眺められるのが写真だ。男はその車の写真を眺めながら、妄想した。男は妄想で、その車を色々な所で走らせた。或る時は、透き通った海が見える道をその車で走るのを妄想した。また或る時は、紅葉している山の道をその車で走るのを妄想した。
しかし同じような妄想を繰り返し、男はそれに飽きてしまった。そこでミニチュアを作ることにした。男はまず紙に設計図を書いた。男は販売店や写真でその車を見ていたが、見えない所もあった。しかし、そこは想像し補った。それから男は材料を揃え、制作に取り掛かった。男の仕事は忙しく、制作は毎日少しずつ行われた。それはだんだんと形が出来ていった。男は部品一つ一つ丁寧に取り付け、悦に浸った。製作開始から一か月後、遂にそれは完成した。男はそれを持ったり置いたりして、色々な角度からそれを眺めて楽しんだ。それは写真と違って立体であり、より男の妄想の助けとなった。
或る日、男の家を大学時代からの友人が訪れた。二人は話に花を咲かせた。途中友人が台に置いてあったそれに気が付き、それが何なのかすぐに分かり感銘を受けた。男が友人にそれについて説明し、そこから二人はその車について語らった。帰り際、友人が男にミニチュア職人になるよう勧めた。友人が帰ってから男は、昔のことを思い出した。小学校でも中学校でも、図工の授業で学期ごとに工作した。その度に一人だけ並外れて高いクオリティのものを作って、周りを驚かせた。しかし高校に入り、周りに合わせて一般の大学を目指し勉強するようになった。大学に入ると今度は、試験の勉強に追われた。大学を卒業すると、就活し入社した。こうして工作する機会が無くなっていき、すっかりサラリーマンに染まっていた。しかし今、久しぶりに工作し、友人を驚かせた。もしかしたら、自分はその世界で通用するかもしれない。こう思った男は、勧め通りミニチュア職人になることにした。男は勤めていた会社を辞め、貯金を切り崩しながらミニチュアを作った。男が制作に掛けられる費用は少なかったが、自前のアイデアで次から次へと高いクオリティのものを作った。かくして男の作品は、世の中に知られるようになった。そして男は、色々なメディアの取材を受けるようになった。メディアで男の作品が発信され、さらに男の作品は有名になり依頼が殺到した。
いつしか男はミニチュア職人として盤石な地位を築き、莫大な資産を手にした。そしていつか憧れていたあの車を買った。
『高級車とミニチュア』の解説
この作品は自分の才能を生かそう!という話……ではありません。私は小説で主張しない主義です。この作品は、高級車に憧れ現実逃避でそのミニチュアを作り、結果的にその車を手に入れたという笑い話です。
次に作品タイトルの解説です。これ実は気分で付けたものではなく、そこには理屈があります。例えば『ミニチュア』にしたらどうか、考えました。しかしこれだと、結末まで意味を含ませることが出来ません。また『高級車』にしたらどうか、考えました。しかしこれだと、「ミニチュアによって」が分かりません。なので高級車もミニチュアも作品タイトルに入れる必要があったのですが、その順番も考えました。この話では高級車の話が最初に出てきています。だから高級車、ミニチュアの順にすることに決めました。こうして案が、『高級車とそのミニチュア』と『高級車とミニチュア』の二つに絞られました。『高級車とそのミニチュア』にしたらどうか、考えました。しかしこれだと、高級車ではないミニチュアを作るのが無視されてしまいます。ということで作品タイトルを、『高級車とミニチュア』にしました。
次につじつま合わせの話です。
男は車の妄想にふけったり、あっさりとミニチュア職人になったりと好き勝手やっています。家族がいたらそうはいきません。だから、男が一人暮らしという設定にしました。
男は手先が特別器用です。だから普通に考えると、早々にその分野の仕事をする筈です。しかしそれではこの話は成立しないので、年齢と共にその能力を生かす機会が無くなっていった様を描きました。
終わりに
今回は自作小説とその解説を載せました。この解説はあくまで、作者の解釈になります。みなさんは存分に深読みしちゃってください。
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