今回は小説の形式についてです。全体としてこんなものを書くんだ、と決まっていても具体的な内容が思いつかないこともあるでしょう。そんなときに試みてほしいやり方を一つ紹介します。
小説って普通は出来事や登場人物の行動を逐次、書いていくじゃないですか。例えば
走った→疲れた→水を飲んだ
みたいな(本当ざっくりですけど)。でも、いつもいつも展開をぽんぽん思いつくわけじゃないですよね。やっぱり調子にはムラがあるものです。芥川龍之介の『鼻』には、そんな悩みを解決するヒントが隠されています。ここからは『鼻』(青空文庫)を読んだというのを前提に話しますので、まだ読んでいないと言う方はこちらから
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さらに三幕構成の基本的な知識があることも前提にしているので、不安がある方はこちらの記事も
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芥川龍之介『鼻』には論述が組み込まれている
さて『鼻』を三幕構成に当てはめてみますと、弟子の一人が医者から鼻を短くする方法を教わってくる場面が第一プロットポイント、鼻を短くして晴れ晴れした内供が周囲の違和感に気づき始める場面がミッドポイントであると思われます。第一幕および第二幕後半を見てみますと、どうも構造的に論述っぽいんです(内容が論述っぽいという話ではありません)。まず初めのほうに或る期間における状況が書かれた文があり、具体的なエピソードがそれに続く。これって論述の、主張があり具体例が続くのとどことなく似ていませんか?この主張の所が出来事や登場人物の行動に置き換わっている、あくまで構造的に。
応用例
今回の話をみなさんが自分の小説に応用しやすくなるよう、いくつか実例を挙げてみます。
(1つ目)
中学校のころ太郎は授業中、よく居眠りをしていた。午後の授業はいつも寝ているが、月曜日は特にひどく午前から寝ていた。入学して間もないころは、太郎を先生たちが「おい、なに寝てんだ!」と叱っていた。続いて周りの生徒たちが叱られる太郎をからかう、それの繰り返しであった。しかし半年ほど絶ってからは誰も太郎の居眠りを指摘しなくなった。あまり寝ているものだから、呆れてしまったのだろう。
(2つ目)
小学校のころ太郎は足が速かった。新学期体力測定の中に50m走とマラソンがあった。マラソンは小学校の校庭を出発し近所を回って校庭に帰ってくるというコースだった。太郎は毎年、50m走もマラソンも学年一位だった。50m走は体力測定の初日に行われていた。太郎は走り出しからゴールまで、どこをとっても美しいフォームで走るのであった。マラソンは体力測定の最終日に行われていた。マラソンは普通、体力を温存するためにゆったりしたペースで走るものだが、太郎は違った。最初から信じられないペースで走るのだ。そしてちゃんと一番でゴールする。早々にただ一人帰ってくる太郎の姿に、校庭で待機する他のクラスの人たちがどよめくのは毎年のことであった。
最後に
今回は芥川龍之介『鼻』の中で出てくる形式を参考に、こんな風に応用できるという例まで紹介しました。今回の話がどんな内容に対しても有効であるとは限りません。ですが一向に筆が進まないときの一打開策になるのではないでしょうか?